建築設計事務所

COLUMN




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特殊地盤解析研究

まえがき

 土木技術者に一番係わりの深い土は私達一般の人々にとっても、たいそう身近な存在であります。幼い頃は砂場で遊び、海水浴場では砂浜に身体を埋めたりして遊んだり、所帯をもてばガーデニングを楽しむ庭付きの一戸建てを求める。生活に欠かせない稲や野菜も、草や木もまた土に根を下ろしています。ところが一方、地すべりや山崩れなどの災害では土は一変して悪役を演じ、人々の生命財産まで奪います。

 「上を向いて歩こう」では有りませんが、今日では月面に着陸し、帰還できるほど科学は進歩しました。ところが、足下の地盤の学問は完全に解き明かされていないのです。ところで、日常生活に欠かすことの出来ない自宅の地盤や周囲の斜面の安全性に気配りしている人はどれほどの方がおいででしょうか。

 我が国は災害国、日本と言われるほど、風水害や地震、地すべりなどが数多く発生しております。最近は地球温暖化に伴う異常気象で想像もつかないような集中豪雨に見舞われるようになり、これからは更に大規模で頻度も多くなると考えなければなりません。その時果たして我が身辺は勿論のこと、道路河川等・公共施設が異常時に耐える事が出来るのか心配です。そのためか、地盤の安全性に対する調査・診断を行い、その結果について情報を開示する動きも見られるようになりました。

 我が、いわき市は温暖にして、大きな自然災害にも見舞われず、平穏な生活が維持されておりますが、地盤の安全性は他の地域に比べて必ずしも優位に位置していないと思われます。

 本市に限らず軟弱地盤の沈下・地すべり・盤膨れなどによる被害額は把握できませんが、これら経済的・時間的損失は言うに及ばず精神的苦痛は計り知れないものがあります。

 我が社はこれら軟弱地盤の沈下・地すべり・盤膨れによる被災防止のため、早くから調査研究を重ね、土木学会・地盤工学会・鉱物学会などに研究発表し、加えて、我が社独自のアイデアを駆使して経済性と安全性の高い成果を提供して参りました。

 そこで、これまでの事例の一部を紹介させて頂きますので、今後活用の場を与えて頂ければ、技術者としてこの上ない喜びであります。

1. いわき市中央卸市場の法面崩壊予測

 仙台のO設計事務所が担当した、いわき市中央卸売市場の造成計画図を見て、この図面で切土工事を進めれば斜面に必ずすべりが発生しますと、予測提言した。資料を基に言った訳ではない。単に、勘だけのものである。と言うのは、それまでも別件で予測したものが全て的中していたから臆することなく言ってしまった 。工事が進行して間もなく地すべりが発生した。

 その対策工法を当社が担当することになった。解析の結果、斜面勾配3割5分、鋼管の抑止杭(千鳥打ち)を併用することになった。

 斜面勾配3割5分に抑止杭が必要なのか、現場を視察した技術者全員が疑った。大手の法面施工業者R社の技術員までもが笑った。抑止杭工事の段取りが遅れていた。

 20mmの降雨があった翌々日、大音響を上げて斜面が動き出した。農林水産省市場課の担当官は、金には糸目を付けぬ、以後絶対に崩壊しない様、対策を講じて欲しいと言われたが設計通りの抑止杭工法で今日も安全である。
 尚、盛土法面の勾配は1割8分である。


写真:いわき市中央卸売市場

2. 国宝瑞鳳殿(伊達政宗公御陵)の地盤安定工事に工法特命

 (仙台市経ヶ峰 仙台市役所 昭和44年~46年 常磐開発(株)施工)

 国宝瑞鳳殿は、昭和20年7月の空襲で消失した。政宗公生誕四百年を前に、瑞鳳殿再建の世論が高まったが、経ヶ峰一帯は地下の亜炭を採掘した鉱害で至る所が陥没し、墓碑・灯籠・参道の石積階段や石垣等の構造物に変動をきたし、樹齢百年の杉の大木も傾いて、その荒廃ぶりは隣接する道路や建物にも危険を感じさせていた。

 仙台市は、東北大学地質学教室の奥津教授に協力を求めた。かつて、前会長 陽田秀道が研究開発した石炭灰を利用した水力充填を東北大学鉱山学部の研究発表で講演した経緯から仙台市役所で工法の優位性を説明する機会を得た。

 仙台市の技術陣は、当時の常磐炭坑の水力充填を視察し、その効果を確信し、臨時石炭鉱害復旧法に基づいて地盤安定工事を完遂した。

 石炭灰(フライアッシュ)の水力充填工法とは、火力発電所から排出される石炭灰の処分に困り、これを有効利用するために、坑内の採掘跡に水力で充填するものである。当時多発していた坑内自然発火を全国の炭坑から皆無にした。また、坑内の盤膨れの防止・温度抑制・可採採炭量の向上・沈下防止等一石数鳥の効果をもたらし、全国炭鉱技術会賞をを前会長 陽田秀道が受賞している。


写真:参道の石積階段

3. 久之浜新設配水池の地質調査

 (いわき市久之浜町久之浜 いわき市水道局 平成 9年11月~平成10年 3月)

 調査目的は、久之浜入大場(いりおおば)地内に新設予定の配水池地盤の安全性を確認する調査Boringと解析であった。

 受注後直ちに、当社独自の簡易判定法で調査判定を行い、現況地形勾配と湧水pHから安全性の確保は困難であるとの結論を報告した。

 発注された調査規模は、掘進長10m×4本であった。念のため、掘進を行い地盤を確認することとなり、地表下15mまで掘進して未風化軟岩に着岩した。ここで簡易判定法を認められ、判定条件を満足する地形地盤を選定するに至った。

 判定条件を満足する中野地区が選定され、調査Boringの結果は-8.0mでN値50以上の未風化岩に着岩した。配水池は-7.0m掘削し、直接基礎形式で設置された。


写真:久之浜新設配水池の地盤調査

4. 田場坂トンネル周辺地盤の潜在地すべり面を予知

 (ふるさとづくり道路整備 いわき建設事務所 平成 8年 3月)

 県道の長大法面の安全性を判定する業務を担当している最中のことである。田場坂トンネルの西側をオープンカットする工事が開始され、長大法面ができることがわかり、発注された業務には含まれていなかったが自主的に当社の簡易判定法によって追加調査を行った結果、潜在すべり面があると判定報告した。

 しかし、信用性が乏しいと県庁本課では問題視されなかったが、結果的には写真で見るような大掛かりのアンカー工法で抑止されている。 

 簡易判定法とは

 人間の健康診断は顔色・肌つや・血液の検査で一応の判定をし、更なる精密検査に入るように、地盤の健康診断も現況地形や植栽の調査や地名・古老の話・加えて地下水の調査、なかでも地下水は血液と同じく地盤内のデータを保有していると考えて、地すべり地や地すべり指定区域の湧水を調査しまとめた。

 論文は、土木学会論文集1999-3 NO.617 Ⅲ-46に掲載された。

写真:田場坂現場工事中

写真:田場坂現場完成

5. 盤膨れの現象解明で学位取得(平成10年 7月)

 盤膨れとは地盤が膨れ上がる現象を総称して呼んでいるが、原因別分類は次のようになる。
 
(1)ヒービング(力学的要因)

 軟弱な粘性地盤を根切りした場合に、掘削の外側の土の重量によって、根切り底面の土がすべりせん断破壊を起こし、掘削の内側に土が回り込み、盛り上がってくる現象をいう。また、掘削底盤付近に不透水層があり、その層以深に大きな被圧地下水が存在すると不透水層が押し上げられる現象も含まれる。

(2)坑道の盤膨れ(力学的要因)

 炭坑の坑道やトンネル開削工事において、底盤部分が膨れ上がる現象をいう。強度の低い岩質の地山を掘削すると側壁側面の地山が回り込む場合に生ずる。破砕帯のような層を貫通する坑道やトンネルはその現象が著しい。

(3)平坦地の盤膨れ(鉱物の成分的要因)

 坑道ばかりでなく、造成地の地表面や道路面などに突然発生するものがある。そのような現象はその地盤の岩成分にスメクタイト(膨潤性鉱物)が含まれていて、応力解放と同時に水分を吸収して、膨張することによる。スメクタイトには膨潤率10%程度のCaスメクタイトと30%以上の高い膨潤率を有するMaスメクタイトがある。全体の含有率よりMaスメクタイトを多く含んでいる岩にこの現象が著しい。

(4)住宅床下の盤膨れ(生化学的要因)

 前前述した力学的鉱物成分とは全く異なる要因で発生する。微生物・空気(酸素)・温度・水分・黄鉄鉱が因子で、その進行速度は緩慢である。地盤の環境変化に伴って、現象が進行したり、停止したりする。

生化学による盤膨れ現象について

 いわき市を中心とする新第三紀層の堆積性軟岩地盤地域を開発造成した新興団地に住宅床下や工場の床版下の地盤が隆起する「盤膨れ現象」による被害が発生した。
 我が国では、福岡・高月・高崎・千葉・山形に発生しているが、いわきほどのものではない。外国ではアメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア等に発生しているが現象解明に至っておらず、対策工法も当を得たものではなかった。
 永年の調査研究の結果、地盤内に棲息する三種類の細菌の協調作用であることに着目、種々の実験観察の結果で実証し、学会に発表、特許を取得した。

 開発前の地盤温度15~16℃で休眠状態の三種の菌は、造成後建築物が出来、生活温度で床下地盤温度が20℃以上になると眼を覚まし活動出来る状態になる。

 一般に、未風化岩のpHは7.0以下にある。含水率は40~50%を保有し、空気が殆どない嫌気の環境にあって、最初に活動するのが硫酸還元菌である。硫酸還元菌は岩中の硫酸塩を還元して硫化水素を発生する。時間の経過とともに地盤が乾燥すると亀裂も生じ空気が浸入しやすくなる。空気の浸入で硫酸還元菌の活動が停止する。空気の浸入で好気性菌である硫黄酸化細菌が活動を開始して、硫化水素を硫酸イオンに還元する。ここで地盤のpHは5以下に低下する。次に空気の浸入と酸性の環境になったところで、好酸性鉄酸化細菌が活動を開始して、岩中の横鉄鉱を酸化還元し大量の硫酸イオンを生成する。地盤のpH は2~3まで低下する。

 これらの細菌が活動する過程で軟岩(特に泥岩)が破砕され体積膨張が起こる。この膨張力が床下地盤を押し上げ、建築物に被害が発生している。また、地盤の酸性化は鉄類やコンクリートの腐蝕にも被害が及んでいる。

写真:床下地盤被害状況

写真:畳の隙間

写真:台所戸棚被害

写真:工場床被害

写真:住宅地盤復旧-1

写真:住宅地盤復旧-2

写真:工場地盤復旧-1

写真:工場地盤復旧-2

表:盤膨れに関わる微生物の生育条件と作用

  増殖最適pH
(生育可能値)
増殖最適温度℃
(生育可能値)
活動に適する
含水率
生 育 条 件 と 作 用 環境変化
硫酸還元菌
(嫌気性)
7.5 34~37℃
(28~40℃)
40~50% 含水率が高く嫌気性環境で地中温度の上昇に伴い、硫酸還元菌が活動する。
有機質を食して硫酸塩を還元してH2Sを発生する。
pHはあまり低下しない。
硫黄酸化細菌
(l)
(好気性)

2.5~3.0
(1.5~5.5)
27~30℃
(10~37℃)
25%以下 乾燥が進んで地盤に空気が進入すると硫酸還元菌の活動が止まり、硫黄酸化細菌が活動をはじめる。H2Sが酸化されてSO42-を生じる。 pHが急激に低下して5以下になる。
硫黄酸化細菌
(ll)
(好気性)
6.5~6.9
(4.5~8.5)
好酸性
鉄酸化細菌
(好気性)
2.5
(1.3~4.5)
30~35℃
(10~37℃)
25%以下 湿度・空気・pHが生育可能値に達し活動する。黄鉄鉱を酸化して大量のSO42-を生成するSO42-とCa2+が化合して石膏,Ca2+以外の鉱物とSO42-が反応して、ジャロサイトができる。 pHが更に低下して4~3以下になる。

6. 斜面アンカー工法は我が社が先駆け

 (いわき市平旧城跡 いわき建設事務所 昭和53年12月)

 いわき駅裏の旧城跡斜面安定工法について、地元3社の工法コンペが行われた。豪雨で斜面の一部が滑落し、被害拡大を防止するための対策工法の選定である。当時は、もたれ擁壁が多く採用されていたが長大法面には不具合であった。

 前社長 陽田は、以前常磐炭鉱時代、斜面長30mを超す急傾の山頂に炭車の捲上げ機が設置されていたところ、その斜面の崩落が目立って増長したのを防止する対策を命ぜられ、斜面アンカー工法を考案したのを思い出した。昭和50年代になると土木技術の進歩で、フリーフレーム工法と名付けられ、専門業者が誕生していた。

 この工法を提案した結果、当社がコンペに優勝し採用された。以来、いわき市内急傾斜法面安定の主要工法として随所に、アンカー工法が採用されている。その先駆け者は我が社である。


写真:旧城跡斜面

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